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復興レポート

インタビュー | 特集
キーパーソン・インタビュー3
「新潟大学 工学部 建設学科 教授 岡崎 篤行氏」
2021/12/16

 駅北大火から5年。糸魚川市の復旧・復興にご尽力いただいた方々から、「災害に強いまち」「にぎわいのあるまち」「住み続けられるまち」づくりに係る活動のあゆみと想いを伺います。

 今回は、糸魚川らしいまちなみの景観づくりに携わっていただいた岡崎先生にお話を伺いました。


プロフィール

1965年福岡市生まれ。東京工業大学社会工学科卒業、同大学院修士課程修了。東京大学大学院博士課程を中退の後、東京都立大学建築学科助手として勤務。その間、米国ボストン大学大学院の保存学専攻客員研究員(短期)として滞在。東京大学にて博士(工学)取得の後、新潟大学工学部建設学科建築学コース講師・准教授を経て、2013年4月より、同大学教授となり、現在に至る。新潟県、新潟市、村上市、佐渡市等県内の都市計画や景観にまつわる審議会等に参画するほか、全国町並み保存連盟理事、新潟県まちなみネットワーク副代表、新潟歴史まちづくり推進協議会副会長、新潟まち遺産の会副代表、古町花街の会副会長等も務める。

主な研究課題
・歴史的環境の実態
・歴史的環境保全・再生の制度・活動(国内およびイギリス・アメリカ・カナダ)
・景観保全・形成計画、景観条例
・まちづくりにおける住民参加、合意形成、NPO


糸魚川らしいまちなみ

駅北復興まちづくり計画評価委員会でコメントする岡崎先生(2018.3.27/市役所)

駅北復興まちづくり計画評価委員会でコメントする岡崎先生(2018.3.27/市役所)

 岡崎先生が教授を務める新潟大学の都市計画研究室では、学生たちが卒業論文や修士論文の研究題材として、20年ほど前から県内各所のまちなみ調査を行っています。大火以前、当市にも訪れ、調査していた岡崎先生は「本町通り沿いに平入りの町屋と雁木がずらっと並び、昔ながらのまちなみがよく残っているな、と感心していた」と、第一印象を回顧します。
 大火後に、駅北復興まちづくり計画検討委員会・評価委員会に参画することになり、「大きな被害を受けたのはショックだったが、それでもなお残る歴史あるまちなみと、新しく整備するところを一体化させ、『糸魚川らしさが継承できれば』と思っていた」と、当時の心境を明かしました。


真正性と調和

 まちづくりにおいて「景観」とは、地域の歴史や文化、人々の生活を背景としてつくられた景色やまちなみのことを指します。その地域を特徴づける景観は、住む人の愛着を育み、観光や交流の場としても効果を発揮するため、2004年(平成16年)に景観法が公布されて以来、全国の自治体では、景観を地域の資産と捉え維持・整備・継承していくための取組が広まっています。大火以前の当市には、景観の形成にかかる制度や規制等に関する明確な基準はありませんでしたが、復興まちづくりを推進し、糸魚川らしいまちなみを再生していくため、「景観・不燃化ガイドライン」を定めました。岡崎先生には、このガイドライン作成時に、屋根の勾配や向き、外壁の色彩について助言していただきました。
 雁木の再生は、地元で暮らす市民だけでなく岡崎先生の願いでもありましたが、重視するにしても過度な予算をかけるのではなく、あくまでも町屋に付く付属品であると定義。「長期的に維持管理していけるものが望ましい。『やりすぎないこと』は意識していた」。
 さらに、「統一感は必要だが、アーケードとして整備する場合は別として、本来、家ごとに微妙にデザインが異なるはずの伝統的な雁木が、全く同じ姿形で並ぶのは不自然であり、ともすれば偽物になってしまう。雁木の本質を見極めたうえで、調和させることが重要」と、真正性(オーセンテイシティ=本物であること)の大切さを語りました。
 現在、本町通り沿線では、ガイドラインに沿った雁木のあるまちなみが形成されつつあります。
 「住宅や店舗はもちろん、雁木も個人の物なので、何も提示しなかったら調和のとれていないまちなみになるのが普通。スピードが求められ難しいチャレンジだったと思うが、沿線住民のご協力のおかげで、景観を意識して計画的に取り組むことができて良かった」と、振り返りました。


景観計画のすすめ

 大火から5年が経過し、様々な実践活動が広がっていく中でも、雁木の老朽化対策と景観への意識は持ち続けることを強く求める岡崎先生。「補助金などの支援がなくなったからと言って、雁木が維持できなくなることや、景観が守られなくなることは避けたい」と述べ、景観を守り、育んでいくことを、地域住民主体で取り組める仕組みづくりを勧めます。
 県内の主な自治体では「景観計画」を作り、景観まちづくりを進めていて、一度作成することで展望が描きやすくなるという効果も期待できるそう。「糸魚川は大変魅力的なまち。駅北地区だけでなく、景観が良いところはたくさんある。全市で盛り上げていくためにも、景観計画はあった方が良い」と、提言します。続けて、「交通アクセスも良い。ヒスイや相馬御風、鉄道といった面白い要素が沢山あるところだから、景観視点で観光資源を洗い出してみるのも良いのでは」と、アドバイスをしていただきました。


景観を継承していく

 景観で良しとされる歴史的な古いまちなみは、言い換えれば木造住宅密集地域であり、防災の面では弱点と背中合わせ。しかし、岡崎先生は「日本全国まちなみ保存に取り組んでいるところでは、大きな火災は起きていない」と、明かします。「歴史的な景観を考える時は、防災設備を一緒に整備することも役目。一番危ないのは、放置していること」と、言及。「復興からのまちづくりに関わってみて、小路や雁木などの“糸魚川らしさ”を残しつつ、広場や道幅といった必要な区画を確保し、防災の安全性も高められて良かった」と、感想を述べました。
 「景観は、意識して、広めて、運動して、守っていかないと風化するもの。行政は景観計画作成の検討を、市民の方々はまち歩きやシンポジウムなど景観を継承していけるような活動を。うまく組み合わせながら双方で続けていって欲しい」と、当市の今後に期待を込める岡崎先生。
 景観を活かし、有名な観光スポットとなっている金沢や京都のまちなみを例に挙げ、「まさに長い時間をかけて整備してきた賜物。今ある糸魚川の良さを大事にしながら景観づくりを進めてもらいたい」とメッセージを残してくれました。


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